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映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 2

学歴社会はどうなっていくの?リンは、カンニングプロジェクトを進めるために、もう1人優秀な生徒、バンクを引き込みます。彼もまた、母子家庭で決して裕福ではなく、家業を継がなければならない状況に追い込まれていました。リンは、「私たちは生まれながらの負け犬」「こっちが騙さなきゃ、世間に騙されるわ」と言い放ちます。身勝手な理屈ですが、不遇な彼にとっては殺し文句だったのでした。リンの言う「生まれながらの負け犬」とは、生まれながらの貧富による格差社会で搾取される側を意味しています。どんなに勉強ができてもお金がないために進学できない状況で、彼女は学力と悪知恵(カンニングビジネス)によってそこから抜け出し、学歴社会で成り上がろうとしているわけです。ただし、先ほど触れたように今後にカンニングがもはや取り締まれなくなったら、その学歴社会はどうなっていくのでしょうか?ここから、文化進化の視点から、学歴社会(学校)の起源を掘り下げ、現在の問題点を浮き彫りにし、その未来を予測してみましょう。(1)身分社会と違って公平に?-起源約5千年前に、西アジアの都市で文字が発明され、家畜などの数の情報管理が可能になり、ますます都市化していきました。これが、読み書きの起源です。この詳細については、関連記事2をご覧ください。当時から、読み書きを次世代に教える場所が町に設けられました。これが、学校の起源です。そして、読み書きを学校で学んだ人が、そのままその能力を発揮する仕事(特権階級)に就きました。しかし、学校に行ける人は、そもそも一部の特権階級の子女に限られていました。時代は進み、約200年前の産業革命以降、読み書き(計算も加わり)が職業的により多くの人に必要とされるようになったため、学校がどんどん増えていき、学校に行ける人もどんどん増えていきました。日本でも、江戸時代に寺子屋がありましたが、明治維新から学校制度が始まりました。そして、どこまで進学したか、つまりどれだけ能力があるかによって社会的地位(階級)が変わるようになりました。とくに戦後の日本では、教育の平等の名のもと、学習指導要領、検定教科書、同年齢同学年(学級固定化)の徹底によって、教育の内容が高度に標準化されるようになりました。こうして、学力の地域差を少なくするという成果をあげることができました6)。同時に、それでも能力に違いが出る場合は、それぞれの努力に違いがあるからだと考えられるようになりました。このように本人の努力によって能力が高まるとされる点で、このやり方は、生まれながらの身分社会(アリストクラシー)と違って公平であるとして受け入れられるようになりました。これが、学歴社会(能力主義、メリトクラシー)の起源です。(2)結局新たな「身分社会」に?-現在の問題点先ほどの裏を返せば、学歴がない、つまり能力が低いのは本人の努力が足りずに頭を良くすることができなかったということになります。現在、この考え方が主流になっています。そして、能力の高い人たちが能力の低い人たちよりも、より多くの収入を得ることは当然とされています。そして、その収入格差はますます大きくなっています。それでも、能力の低い人たちは努力不足というコンプレックスを植え付けられ卑屈にさせられているため、目立って抵抗できません。できるとしたら、代わりに自分の子供の学歴を高くさせようと必死になることでしょう。とくに日本では、その努力が、学校だけでなく塾にも通うことになっています。塾に行かせられる経済力のある家庭環境かそうじゃないかという教育格差の議論は、また別にあります。しかし、行動遺伝学の研究によると、努力(性格)も頭の良さ(知能)も、もともとの生まれ持った資質(遺伝)が約50%程度影響していることがわかっています7)。そして、グラフ1のように、収入への遺伝の影響度は、入職時から上積みされていき40代には約60%近くに達することがわかっています7)。一方で、収入への家庭環境の影響度、つまり教育格差は逆に目減りしていき40代にはほぼ0%になることから、教育格差は最終的には問題ではないこともわかります。ちなみに、国際比較すると、日本における教育格差は凡庸な水準です8)。一番問題なのは、遺伝という「生まれ」によって社会に格差を生み出していることです。この点では、学歴社会も公平であるとは言えず、結局新たな「身分社会」をつくっていることになります。これが、現在の問題点です。そして、これは「遺伝格差」と言い換えることができます。なお、教育格差と遺伝格差の詳細については、関連記事3をご覧ください。つまり、試験は、かつては測った能力によって順当に社会的役割を割り当てる手段であったはずなのに、現在では逆に社会的地位を分け隔てるために不当に能力(遺伝)の違いを見いだす目的そのものになってしまったのです。これは、よくある「手段の目的化」です。簡単に言うと、能力があるから試験で選ばれるのではなく、試験で選ばれるから能力があるとみなされるようになったのです。文化進化の視点に立てば、この社会構造(環境)の変化によって、先ほど触れた「勉強しかできない人(遺伝子)」が現れるようになったのでしょう。この変化の期間は、産業革命から約200年間であり、遺伝子進化の歴史としてはかなり短いです。しかし、この環境の変化は劇的であることから、より適応的な遺伝子(より勉強ができる人)が急速に選択されていった(結婚相手に選ばれていった)と考えられます。これは、ここ100年で知能検査が改定されるたびに知能指数が相対的に上がり続けている現象(フリン効果)を説明することができます。ちなみに、知能検査についても、能力の違いによって知能指数に違いが出るのではなく、知能指数に意図的につくった違い(正規分布)によって能力に違いがあるとみなしています。なお、学歴への選り好みの心理の詳細については、関連記事4をご覧ください。(3)カンニングが革命に?-未来不公平かどうかは置いておいて、学歴社会は国力を高めるために必要であると考える人は多いです。国民の学力(認知能力)が高まれば高まるほど国の経済力がますます高まるという考え方です。実は、厳密には違います。確かに、現在まで日本のPISA(国際学習到達度調査)の成績はトップレベルを維持しており、GDP(国内総生産)もトップレベルを維持してます。しかし、GDPのトップである米国のPISAの成績は決してトップレベルではありません。GDPで2位の中国のPISAの成績(2018年)は、確かにトップレベルなのですが、北京などの大都市に絞り農村部を除いている点で、いかにも面子を重んじる中国ならではの結果です。また、1人あたりGDPとしてみると、米国は10位以内で良いのですが、なんと日本は世界ランキング30位台で、中国は50位圏外です。むしろ、米国、中国、日本に共通するのは、先進国の中で格差の度合い(ジニ係数)が大きいことです8)。このことから、かつての身分社会にしても現在の学歴社会にしても、結果的に搾取するシステムを先鋭化させて格差を大きくした方が、その国の経済力が高まることがわかります。たとえば、中国はコネ社会(身分社会)と学歴社会の要素が両方あります。米国も実は日本以上に学歴社会です。米国が「自由の国」であるというのは昔話であり、学歴という「身分」を得ることができなければ搾取される「自己責任の国」になっています。逆に、北欧のように格差の小さい社会を目指そうとしたら、経済力はそこまで高まらず、国際競争力は期待できないというジレンマはあります。このわけは、格差の大きい社会と格差の小さい社会をそれぞれゲーム理論の「主人と奴隷戦略」「しっぺ返し戦略」に当てはめて説明することができます(関連記事5)。つまり、学歴(認知能力)は先進国になるためにある程度必要ですが、学歴を高めれば高めるほど、その分仕事がよりできる(経済力がより高まる)ようになるわけではないです。とくに日本における高度な受験勉強が、その後の一般の仕事や日常生活に役立つことがほとんどないことは、受験勉強をした多くの人がすでに気付いていることでしょう。受験勉強がその後の人生に役立つと主張する人は、実は教育ビジネスに携わる人だけでしょう。学歴社会が公平であるということも経済力を高めるということも見せかけで、その実態は不公平(格差)を生み出す装置になり下がっていることがわかりました。そんな学歴社会をひっくり返すのが、なんとカンニングです。現在、生成AIの登場によって、今ある多くの認知能力を必要とする仕事は将来なくなっていくことが予測されています。それでは、残った仕事の取り合いのために、学歴社会がより熾烈になるでしょうか?むしろ、残った仕事は、学歴で求められるような認知能力を必要としません。仮にそれでもあえて学歴が求められたとしても、生成AIを利用した「カンニング眼鏡」が出回れば、受験生全員が単独犯でほぼ満点の答案を作成することができるようになります。すでに、生成AIを利用した学校の課題レポートの作成が急速に広まっています。もはやカンニングが取り締まれなくなる状況は、すぐそこまで来ています。もちろん、生成AIを使いこなす認知能力は必要ですが、認知能力そのものを高める必要はなくなります。これはちょうど、サバンナで猛獣と戦うために、原始の時代は身体能力を高める必要がありましたが、現代では身体能力そのものを高める必要はなく、銃と車を使いこなす能力があれば十分であるのと同じです。つまり、カンニングが学歴社会に革命を起こすと言えます。そうなれば、学歴に価値がそこまでなくなります。スポーツや楽器演奏が得意であるのと同じレベルになります。そして、学校は、それ自体に権威がなくなり、もはや役所や公園と同じようなただの社会の機能の1つにすぎなくなるでしょう。すると、最終的にはカンニングをする必要すらなくなります。これは、学歴社会、学校の歴史の1つの転換期と見ることができます。この時、真の教育のあり方が問われます。これは、「カンニング教育革命」と名付けることができます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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わさびは高齢者の記憶力を向上させる

 わさびには記憶力を高める効果がある可能性が、健康な少人数のボランティアを対象とした日本の研究で示唆された。論文の筆頭著者である、人間環境大学総合心理学部教授の野内類氏は、「わさびが健康に良いことは、先行の動物実験で明らかになっていた。それでも、今回の研究で示されたわさびの記憶力向上効果の大きさには、本当に驚かされた」と述べている。野内氏と東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太氏を中心とする研究グループによるこの研究結果は、「Nutrients」に10月30日掲載された。 この研究では、健康なボランティア72人(平均年齢65.43歳、女性53人)を対象に二重盲検化ランダム化比較試験を実施し、わさびに含まれている抗酸化・抗炎症化合物であるヘキサラファン(6-MSITC)の摂取が認知機能に与える影響について検討した。対象者は、12週間にわたってヘキサラファン0.8mgを含有するわさび抽出物のサプリメントを摂取する群(ヘキサラファン群)とプラセボを摂取する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。介入前と介入後に対象者の認知機能(実行能力、エピソード記憶、処理速度、作業記憶、注意力)の評価を行った。 解析の結果、ヘキサラファン群ではプラセボ群と比べて、エピソード記憶と作業記憶の成績が有意に向上していることが明らかになった。これら2つ以外の認知機能については、プラセボ群との間に有意な差は認められなかった。野内氏は、「わさび抽出物のサプリメントを投与された対象者は、高齢者の記憶に関する主な問題である顔と名前の関連付けにおいて、より良好なパフォーマンスを見せた」と具体的な説明を加えている。 では、なぜわさびを摂取すると記憶力が向上するのだろうか。野内氏らは、ヘキサラファンには、記憶を司る脳の海馬領域の炎症を抑制し酸化レベルを低下させる作用があるのではないかと推論している。 野内氏は、脳の健康を保つための方法とされる地中海食、運動療法、音楽療法などは離脱率が高いことから、わさびに注目したと話す。同氏は、わさびを高齢者でも摂取しやすいサプリメントにすることで、毎日の摂取が容易になり、かつ生姜やウコンなど他の抗炎症スパイスよりも効果を見込めると考えたという。 研究グループは、他の年齢層にもわさびを摂取させ、認知症患者の記憶力低下を遅らせることができるかどうかを調べる予定であると述べている。 なお、本研究には、わさび商品を製造する金印株式会社が資金を提供したが、研究グループは、同社が研究自体には関与していないと述べている。

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原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対するelafibranorの有用性と安全性(解説:上村直実氏)

 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、自己免疫学的機序による肝内小葉間胆管の破壊を特徴とする慢性胆汁うっ滞性肝疾患であり、徐々に肝硬変から肝不全へ移行するとともに肝がんをも引き起こすことのある疾患で、わが国の難病に指定されている。最近の診断技術や治療の進歩により肝硬変まで進展する以前に胆管炎として診断されるケースが多くなり、2016年にそれまで使用されていた原発性胆汁性肝硬変から原発性胆汁性胆管炎と病名が変更されている。進行期の症状としては掻痒感や黄疸が特徴的であるが、その前には無症状であることが多く、日本における患者数は中年の女性を中心として約5~6万人に上ると推定され、稀な疾患というわけではない。 治療法としてはウルソデオキシコール酸(UDCA)が標準治療薬で、肝硬変が進み肝不全になった場合には肝移植が究極の救命法であったが、最近、病気の進行を抑制するために高脂血症の治療薬であるベサフィブラートとUDCA併用療法の有効性が報告され、厚生労働省研究班による『PBC診療ガイドライン2023』にも推奨されている。ただし、わが国でベサフィブラートは高脂血症にのみ保険適応があるため、高脂血症を合併しないPBCに対しては、臨床研究として投与することが適切となっている。 今回は、UDCAに不応性のPBCに対してペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)α、およびδのデュアルアゴニストであるelafibranorの有効性を検証した国際共同RCTの結果が、2023年10月のNEJM誌に報告された。プラセボと比較して投与52週目には、胆道系酵素やビリルビンなどの血清学的異常が有意に改善していた。長期投与により、さらなる改善が期待される結果である。ちなみにelafibranorはインシュリン抵抗性を改善して、糖尿病、高脂血症および非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に対する有用性が示されて、今後の臨床応用が期待されている薬剤である。 このようにUDCAのみでなく胆管炎から肝硬変への進展を抑制する薬剤が次々と開発され、PBCの予後が大幅に改善されることが切望される。最後に、ベサフィブラートやelafibranorは米国のFDAで承認されており、いまだにPBCに対して保険適用となっていない日本においても、迅速な承認が期待される。

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原発性胆汁性胆管炎の2次治療、elafibranorが有効か/NEJM

 標準治療で十分な効果が得られなかった原発性胆汁性胆管炎の治療において、経口投与のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)α、δの二重作動薬であるelafibranorはプラセボと比較して、生化学的治療反応が有意に優れ、ALP値の正常化の割合も高いことが、米国・Liver Institute NorthwestのKris V. Kowdley氏らが実施したELATIVE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年11月13日号に掲載された。14ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 ELATIVE試験は、14ヵ国82施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年9月~2022年6月の期間に患者を登録した(フランスのGENFITおよびIpsenの助成を受けた)。 年齢18~75歳、原発性胆汁性胆管炎と診断され、標準治療のウルソデオキシコール酸の効果が不十分または許容できない副作用を認めた患者を、elafibranor(80mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、52週の時点での生化学的治療反応(ALP値が正常範囲上限の1.67倍未満で、ベースラインから15%以上減少し、総ビリルビン値が正常であることと定義)とした。 161例を登録し、elafibranor群に108例、プラセボ群に53例を割り付けた。ベースライン時に66例(elafibranor群44例、プラセボ22群)に中等度~重度のそう痒を認めた。平均(±SD)年齢は57.1±8.7歳で、96%が女性であり、平均ALP値は321.9±150.9U/Lであった。有害事象は消化器症状の頻度が高い 52週時に生化学的治療反応を達成した患者は、プラセボ群が53例中2例(4%)であったのに対し、elafibranor群は108例中55例(51%)と有意に優れた(群間差:47%ポイント、95%信頼区間[CI]:32~57、p<0.001)。 52週時にALP値が正常化した患者は、プラセボ群では1例もなかったのと比較して、elafibranor群では15%と有意に良好であった(群間差:15%ポイント、95%CI:6~23、p=0.002)。 また、ALP値のベースラインから52週目までの最小二乗平均変化量は、elafibranor群が-117.0U/L(95%CI:-134.4~-99.6)、プラセボ群は-5.3U/L(-30.4~19.7)だった(群間差:-111.7U/L、95%CI:-142.0~-81.3)。 中等度~重度のそう痒を有していた患者における最悪のかゆみの数値評価尺度(WI-NRS、0[かゆみなし]~10[考えうる最悪のかゆみ]点)スコアの52週目までの最小二乗平均変化量は、elafibranor群が-1.93点、プラセボ群は-1.15点であり、両群間に有意な差はみられなかった(群間差:-0.78点、95%CI:-1.99~0.42、p=0.20)。 また、ベースラインで中等度~重度のそう痒を認めた患者におけるPBC-40 QOL質問票のかゆみドメインの52週目までの最小二乗平均変化量(群間差:-2.3、95%CI:-4.0~-0.7)、および5-Dかゆみ尺度の52週目までの変化量(群間差:-3.0、95%CI:-5.5~-0.5)は、いずれもプラセボ群に比べelafibranor群で良好だった。 試験期間中に発現した有害事象(elafibranor群96%、プラセボ群91%)、試験薬関連の有害事象(39%、40%)、重度の有害事象(11%、11%)、重篤な有害事象(10%、13%)、試験薬の投与中止の原因となった有害事象(10%、9%)の割合は、両群で同程度であった。また、10%以上で発現した有害事象やelafibranor群で頻度の高かった有害事象は、主に消化器症状(腹痛[11%、6%]、下痢[11%、9%]、悪心[11%、6%]、嘔吐[11%、2%])であった。elafibranor群で致死的な有害事象を2例(1.9%)に認めた。 著者は、「生化学的反応の改善効果は、他のPPAR標的治療薬の報告と一致している。また、ALP値の正常化は無移植生存率の改善と関連することが示されており、同値の正常化の割合はelafibranor群で有意に良好であった」とし、「本試験の結果により、elafibranorは原発性胆汁性胆管炎患者に対し有効で、新たな2次治療薬となる可能性が示された」と指摘している。現在、非盲検下に延長・確認第III相試験が進行中で、本薬の長期的な安全性および臨床アウトカムへの影響に関する追加データの評価を行っているという。

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成人1型糖尿病患者の3分の1以上が30歳過ぎまで病型を診断されていない

 米国では、成人の1型糖尿病患者の10人中4人近くが、30歳を過ぎるまで、糖尿病の病型が1型であると診断されていないという実態が報告された。ただし研究者らは、「明らかになったこの結果は、1型糖尿病の発症パターンが多様であることを意味するものであって、いつまでも診断されずにいる1型患者が多数存在するというわけではない」とも述べている。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学大学院のMichael Fang氏らによるこの研究の結果は、「Annals of Internal Medicine」に9月26日、レターとして報告された。同氏は、「この結果は多くの臨床医にとって驚嘆に値するだろう」と述べている。 1型糖尿病は、免疫システムの暴走によって自分自身の体に対して攻撃が生じた結果、発症すると考えられており、このような発症原因は、より一般的な病型である2型糖尿病と大きく異なる。2型糖尿病の原因には生活習慣関連因子の占める割合が大きく、より具体的には、過体重や肥満によって生じるインスリン抵抗性のために高血糖を呈することが多い。米疾病対策センター(CDC)は、米国での全糖尿病患者のうち1型糖尿病はわずか約5~10%程度であるとし、また1型糖尿病の明確なリスク因子は特定できていないものの、家族歴の存在は一定のリスクを示していると解説している。 1型糖尿病はどの年齢でも発症する可能性があるが、一般的には小児期や思春期、若年成人期での発症が多いというコンセンサスがある。しかしFang氏らの今回の研究報告は、そのような理解が誤りである可能性を示している。1型糖尿病患者の半数以上が、20歳以降に発症していると考えられるという。 Fang氏らは、2016~2022年(2018年は除く)の米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを用いて、950人近くの成人(18歳以上)1型糖尿病患者の診断時年齢を調べた。NHIS調査時の平均年齢は49歳で、約4分の3を白人が占めていた。診断時の年齢の中央値は24歳であり、これは全体の半数は24歳以上になってから診断されていたことを意味する。また、全体の57%は20歳以降に1型糖尿病と診断され、37%は30歳以降、22%は40歳以降に診断されていた。 性別で比較した場合、男性は女性よりも遅く診断されていることが多かった(診断時年齢の中央値が女性は22歳で男性は27歳)。人種/民族で比較した場合は、非ヒスパニック系白人は診断時年齢の中央値が21歳であるのに対して、マイノリティーでは26~30歳と、やや高齢の範囲に分布していた。これらの結果からFang氏は、「1型糖尿病は一般的に小児期に発症すると考えられているが、それほど単純なものではなく、発症の時期は幅広い年齢層に分布している可能性がある」と述べている。 1型糖尿病の場合、基本的には生存のためにインスリン療法が必須とされる。ただしCDCによると、そのような1型糖尿病であっても、発症後の初期には症状が軽度なこともあり、数カ月、場合によっては数年間も1型だと気付かれないこともあるとしている。また現時点では、糖尿病を新規発症した患者全員に対して、糖尿病の病型を診断するための検査を行うような推奨はされていない。 本研究には関与していない、米デューク大学マーゴリス医療政策センターのCaroline Sloan氏は、「多くの臨床医は、成人発症の糖尿病であれば1型糖尿病の可能性は低いと考える。しかし実際はそうとは言えないことが本研究から明確になった」と述べている。また同氏は、「これは大きな問題である」とし、その理由を「1型糖尿病と2型糖尿病では、治療内容や患者への指導・情報提供内容が異なり、さらに、治療に当たる医師の変更を要することもあるからだ。発症後に行われる治療次第で、患者のその後の血糖コントロールに差が生じてしまうこともあり得る」と解説。その上で、「成人発症の糖尿病であっても、診断時に糖尿病の病型まで把握可能な検査を行うことが重要ではないか」と提言している。

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第185回 六本木で開催中の「ブラック・ジャック展」で考えた、“黒い医者”たちと医療・医師の普遍性

三重大病院臨床麻酔部事件、執行猶予4年の一審判決を控訴審判決が支持、被告側の控訴を棄却こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2020年9月の事件発覚以降、本連載でも度々取り上げてきた三重大病院臨床麻酔部の汚職事件(「第145回 三重大臨床麻酔部汚職事件、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決、賄賂は「オノアクト使用の見返りだった」ほか)において、第三者供賄と詐欺の罪に問われた同部元教授(57)の控訴審判決が10月23日、名古屋高裁でありました。同高裁は懲役2年6ヵ月、執行猶予4年とした一審の津地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却しました。中日新聞等の報道によれば、判決理由について杉山 慎治裁判長は、薬剤発注を巡る汚職事件について元教授が製薬会社の担当者から頻繁に報告を受け、処方量を増やすよう部下に指示するなど「大学への寄付と処方とが密接に関連付けられていた」と指摘、被告側の「製薬会社から大量に処方するよう依頼された事実はない」との無罪主張を退けたとのことです。オノアクトを実際には使っていないにもかかわらず、使用したように電子カルテのシステムに入力し、診療報酬を不正請求していた事件(一連の汚職事件は、この奇妙な不正請求事件の発覚が発端でした。「第25回 三重大病院の不正請求、お騒がせ医局は再び崩壊か?」参照)についても被告側は無罪を訴えていましたが、「詐欺の故意があった」とされました。被告側は上告するかをこれから検討するとのことです。なお、診療報酬の不正請求事件に関与し、詐欺などの罪で懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた三重大病院の元准教授(元教授の部下)については、10月12日、厚労省東海北陸厚生局が健康保険法に基づき、保険医登録を取り消す行政処分を出しています。刑が確定したことを踏まえての行政処分です。中日新聞等の報道によれば、東海北陸厚生局は「原則とし5年間は保険医の再登録をしない」とのことです。事件発覚から3年以上経っても罪が確定していない元教授ですが、確定すれば元准教授のように、保険医取り消し等の行政処分が待っています。医師はほかの仕事に比べて高収入で、皆から羨まれる特権的な職業ですが、一方で、罪を犯せばそれらが一瞬にしてふいになってしまう危うさもあります。とくに、国公立の医療機関でのお金に関する犯罪は致命的です。皆さんも気をつけて下さい。「ブラック・ジャック」連載50周年を記念した展覧会ということで、今回は、お金に執着する悪い医者、“黒い医者”たちが多数登場する手塚 治虫の医療漫画「ブラック・ジャック」について書いてみたいと思います。この週末、東京・六本木(東京シティビュー、六本木ヒルズ森タワー52階)で開催されている「手塚治虫 ブラック・ジャック展」に行ってきました。「ブラック・ジャック」連載50周年を記念したというこの展覧会では、“漫画の神様”手塚 治虫の一連の作品の中での「ブラック・ジャック」の位置付けや、誕生の背景を学ぶことができます。そして、さまざまなテーマごとに展示された200以上のエピソードから、手塚 治虫自身の医療や医学に対する考えや思想も知ることができます。もっとも、そうした“ブラック・ジャック学”よりも、展示された500点を超える原画の迫力こそが、この展覧会の肝だと言えるでしょう(第1話を含め、何話かは原画でエピソード全体を読むことができます)。まるで昨日描いたかのようなペンの筆致や、消し忘れたネームの鉛筆の跡などから、“神様”の漫画に対する情熱を実感できます。「手塚時代は終わった」報道直後から連載開始「ブラック・ジャック」の連載が開始したのは、今からちょうど50年前、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)1973年11月19日号でした。展覧会では原画展示の直前のブースに1973年11月6日付の読売新聞の記事が大きなパネルで展示してありました。「『虫プロ』ついに倒産 鉄腕アトム、劇画に敗れる」という見出しの記事は、手塚アニメの制作を行っていた虫プロの倒産を報じています。背景には「巨人の星」や「ゴルゴ13」といった劇画ブームの到来があるとして、記事は「今度の相次ぐ倒産劇で手塚時代に終止符を打った」と書いています(同年8月には版権管理や出版を担当していた虫プロ商事も倒産しています)。「ブラック・ジャック」の連載は、その約1週間後に発売された「週刊少年チャンピオン」から始まったのです。自分の会社の倒産どこ吹く風、手塚時代の再到来を信じて取り組んだのが、大阪大学医学部卒業という自らのキャリア、専門性をフルに生かした医療漫画だったわけです。その後、「ブラック・ジャック」の人気は徐々に高まり、手塚 治虫は復活します。1970~80年代に「ブラック・ジャック」を読み、外科医を志した人も少なくないのではないでしょうか。「ドカベン」、「ブラック・ジャック」、「がきデカ」、「マカロニほうれん荘」…、「週刊少年チャンピオン」の黄金時代私自身は「ブラック・ジャック」の熱心なファンではありませんでしたが、1970年代の「週刊少年チャンピオン」は結構読んでいました。「ブラック・ジャック」連載開始時には水島 新司の「ドカベン」が連載中でしたし、1974年からは山上 たつひこの「がきデカ」が、1977年からは鴨川 つばめの「マカロニほうれん荘」が掲載されていたからです。当時「週刊少年チャンピオン」は「週刊少年ジャンプ」よりも発行部数が多く、一説には200万部以上だったとも言われています。私は、ギャグ漫画では飛ぶ鳥落とす勢いだった「がきデカ」と「マカロニほうれん荘」(5年ほど前に、東京・中野で鴨川 つばめの原画展が開かれました)を腹を抱えて読んでから、お口直しに「ブラック・ジャック」か「750ライダー」(石井 いさみ)を読む、という流れだったのですが、今回、原画の展示を見ながら、いくつかのエピソードについては読んだ記憶が蘇ってきました。医療倫理や医師の生態などのテーマではストーリーがまったく古びていない「手塚治虫 ブラック・ジャック展」の展示では、「医療 現代性」「医療倫理」「昭和時代」「手塚治虫のマンガ表現」など9つのテーマ別に原画が展示されています。「ブラック・ジャック」で描かれる50年前の医療技術は少々古臭く、荒唐無稽な手術、治療法も多いのですが、医療倫理や医師の生態などのテーマになると、ストーリーの内容がまったく古びていないのには驚きます。その点は、山崎 豊子の小説「白い巨塔」や、それを映画化した山本 薩夫監督の同名映画(「第181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省『今後の医学教育の在り方に関する検討会』中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?」参照)とも共通するかもしれません。たとえば、安楽死を請け負うドクター・キリコは、ブラック・ジャックに計6回も登場する有名キャラクターですが、「ふたりの黒い医者」というタイトルのエピソードでは、安楽死を巡って2人がそれぞれの考えをぶつけ合います。ちなみに京都で起きたALS患者嘱託殺人事件の被告の1人は、SNSに「ドクター・キリコになりたい」と投稿していたそうです。「六等星」や「ホスピタル」などのエピソードでは、大病院における権力争いや、大学医学部の序列が描かれます。手塚 治虫も呆れていたと思われる医療界の普遍的な姿です。また一方で、「U-18は知っていた」では、最先端の病院で診療や手術を行うコンピューター医師が登場します。今でいうところのAIドクターです。そのAIドクターが入院患者を人質に取るところから始まるこのエピソード、50年近く前に発表されたにもかかわらず、今から10年、20年先の医療現場を描いているようで少々怖くなります。生成AIを活用して「ブラック・ジャック」の新作を制作そう言えば、今年6月、OpenAIの「GPT-4」やStability AIの「Stable Diffusion」などの生成AIを活用して「ブラック・ジャック」の新作を制作しよう、という試みが発表されています。AIはブラック・ジャックを主人公にどのようなストーリーを作るのでしょうか。近々「週刊少年チャンピオン」で発表される予定という新作が楽しみです。「手塚治虫 ブラック・ジャック展」は、東京・六本木で11月6日まで開かれています。混雑していることも多く、インターネットで時間指定のチケットを購入することをお勧めします。また、ブラック・ジャックをこれから読んでみようという方には、書籍の『あなたが選ぶブラック・ジャックBest 40』(手塚 治虫、秋田書店)が最適です。読者投票で選ばれたベスト40のエピソードからベスト20作品を読むことができます。

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がん患者の血栓症再発、エドキサバン12ヵ月投与が有効(ONCO DVT)/ESC2023

 京都大学の山下 侑吾氏らは、下腿限局型静脈血栓症 (DVT)を有するがん患者に対してエドキサバンによる治療を行った場合、症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)の再発またはVTE関連死の複合エンドポイントに関して、12ヵ月投与のほうが3ヵ月投与よりも優れていたことを明らかにした。本結果はオランダ・アムステルダムで8月25~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC、欧州心臓学会)のHot Line Sessionで報告され、Circulation誌オンライン版2023年8月28日号に同時掲載された。 抗凝固療法の長期処方は、血栓症の再発予防にメリットがある一方で出血リスク増加が危惧されており、その管理方針には難渋することが多いが、日本国内だけではなく世界的にもこれまでにエビデンスが乏しい領域であった。とくに、比較的軽微な血栓症を有するがん患者における抗凝固薬の使用については、ガイドラインでも投与期間を含めた明確な治療指針については触れられていない現状があることから、同氏らはがん患者における下腿限局型DVTに対する抗凝固療法の最適な投与期間を明らかにする大規模なランダム化比較試験を実施した。 本研究は日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験で、下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付けた。主要評価項目は12ヵ月時点での症候性VTEの再発またはVTE関連死の複合エンドポイントで、主な副次評価項目は12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)とした。 主な結果は以下のとおり。・2019年4月~2022年6月までの601例がITT解析対象集団として検討された。エドキサバン12ヵ月群には296例、3ヵ月群には305例が割り付けられた。・対象者の平均年齢は70.8歳で28%が男性だった。全体の20%がベースライン時点でDVTの症状を呈していた。・症候性のVTE再発またはVTE関連死は、エドキサバン12ヵ月群で296例中3例(1.0%)、エドキサバン3ヵ月群で305例中22例(7.2%)発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。・大出血は12ヵ月群では28例(9.5%)、3ヵ月群では22例(7.2%)で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。・事前に指定されたサブグループは、主要評価項目の推定値に影響を与えなかった。 山下氏は、「がん患者では軽微な血栓症でもその後の血栓症悪化のリスクが高い、というコンセプトを証明した試験であり、下腿限局型DVTを有するがん患者においては、抗凝固療法による再発予防がなければ、その後の再発リスクは決して低くはないことが示された」とまとめた。一方で、「統計学的な有意差は認めなかったが、抗凝固療法に伴う出血リスクも決して無視することはできないイベント率であり、本研究の結果を日常臨床に当てはめる際には、やはり血栓症リスクと出血リスクのバランスを考慮したうえで、患者個別レベルでの検証が必要であり、とくに出血リスクの推定が重要であると考えられる。同研究からさまざまなサブ解析を含めた検討が共同研究者により開始されているが、今後それらの検討結果を含めてさらなる検証を続けたい」と述べた。 最後に、「本研究は、がん関連血栓症を専門とする数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における大きな研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、そのような貴重な取り組みに関与させていただいた1人として、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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飲酒時のウコンの効果は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第240回

【第240回】飲酒時のウコンの効果は? Unsplashより使用コロナ禍も落ち着き、飲み会が増えてきたかもしれません。学会でも懇親会が催されることが増えました。さて、久しぶりにアルコールを飲むと「大丈夫だろうか」と健康が気になるところです。医学的にエビデンスがあるのかないのかよくわからないけど、ウコンを飲んでいるという人もいるかもしれません。Zhao HL, et al.Negative effects of curcumin on liver injury induced by alcohol.Phytother Res. 2012 Dec;26(12):1857-1863.この研究は、クルクミンがアルコールを摂取したマウスの肝臓にどのような影響を与えるか調べたものです。クルクミンは、ウコンに含まれるポリフェノールの一種で、これが肝臓によいとされています。マウスに対してクルクミンとエタノール(アルコール)を注射し、肝臓の組織を顕微鏡で観察したところ、クルクミンがエタノールによる肝障害を保護するどころか、むしろ悪化させている可能性が指摘されました。あれ? 真逆の結果です。ウコンはCMで放送されるくらいですから、その効果を支持する報告はもちろんたくさんあります。飲酒前のウコンの有効性を検証した研究では、クルクミンを摂取した場合にアセトアルデヒド濃度の上昇が抑制され、もともとγ-GTPが高い人に対しても肝臓の逸脱酵素の数値を改善させる効果があると報告されています1)。相反する結果もありますから、もしかすると、ヒトを1,000人ずつくらい集めてウコンの効果を比較しても、統計学的な差を生むほどの効果はないのかもしれません。何かしらのサプリメントでアルコール性肝障害を予防するくらいなら、飲み会の席で、目の前にある1杯のアルコールを減らしたほうが効果的かもしれません。まあ、それを言ってしまうとこの話はおしまいなのですが。世の中に「効果がある」と謳われている健康食品の多くは、大規模な臨床試験を行われていないことが問題で、日常的に密接に関わるものなので、もう少し検討してほしいなあと思っています。マウスに対する10の効果がヒトに対しても10であると捉えられていて、1つ1つの事象が飛躍の積み重ねになっている健康食品もあります。1)Shimatsu A, et al. Clinical application of “Curcumin”, a multi-functional substance. Anti-Aging Med. 2012;9:75-83.

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ウイルス感染時の発熱による重症化抑制、腸内細菌叢が関係か/東大ほか

 これまで、ウイルスに感染した場合に外気温や体温が重症度に及ぼす影響は明らかになっていない。そこで、東京大学医科学研究所の一戸 猛志准教授らの研究グループは、さまざまな温度条件で飼育したマウスに対し、ウイルスを感染させた場合の重症度を解析した。その結果、体温の上昇によりウイルスに対する抵抗性が高まり、血中胆汁酸レベルが上昇した。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の血液についても解析した結果、軽症患者は中等症患者と比較して血中胆汁酸レベルが高かった。これらのことから、発熱により腸内細菌叢が活性化し、2次胆汁酸産生を介してウイルス感染症の重症化が予防されることが示唆された。本研究結果は、Nature Communications誌2023年6月30日号に掲載された。 外気温や体温がウイルス感染後の重症度に及ぼす影響を解析するため、マウスを4℃、22℃、36℃条件下で7日間飼育した。このマウスにインフルエンザウイルスまたは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を経鼻的に感染させ、体温、体重、生存などへの影響を検討した。また、22℃、36℃で飼育したマウスの血清メタボローム解析を実施した。さらに、COVID-19患者を重症度で分類し(軽症、中等症I/II)、血液を解析した。 主な結果は以下のとおり。・36℃条件下で飼育したマウスの基礎体温は、38℃を超えた。・36℃条件下で飼育したマウスは、4℃、22℃条件下で飼育したマウスと比較して、インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2に対して高い抵抗性を示し、感染後の生存率が有意に改善した。・36℃条件下で飼育したマウスは、4℃、22℃条件下で飼育したマウスと比較して、1次胆汁酸のコール酸、2次胆汁酸(腸内細菌によって産生)のデオキシコール酸(DCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)の血中濃度が有意に高かった。・22℃条件下で飼育したマウスに、通常の水道水またはDCA、UDCAを添加した水道水を与え、インフルエンザウイルスを経鼻的に感染させたところ、DCAやUDCAを与えた群では、肺のウイルス量や好中球数が減少し、感染後の生存率が有意に改善した。・COVID-19中等症I/II患者は、軽症患者と比較して、血漿中の重症化マーカーであるフィブリノーゲン濃度が有意に高かった。一方、胆汁酸の一種であるグリシン抱合型コール酸(GCA)について、中等症I/II患者は軽症患者と比較して、血漿中濃度が有意に低かった。 著者らは、「発熱による腸内細菌叢の活性化は、血中および腸内の胆汁酸レベルを上昇させ、インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2感染後のウイルス複製および有害な炎症反応を抑制することが示された。COVID-19中等症I/II患者の血漿において、特定の胆汁酸が減少するという知見は、症状発現の差異に関する洞察を与え、COVID-19の転帰を緩和するためのアプローチを可能とするかもしれない」とまとめた。また、「これらの知見を活かして、今後は高齢者がインフルエンザやCOVID-19で重症化しやすくなるメカニズムの解明や、宿主とウイルスの共生メカニズムの解明、胆汁酸受容体を標的としたウイルス性肺炎の重症化を抑える治療薬の開発に向けた研究を推進する予定である」としている。

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先天性胆汁酸代謝異常症〔Inborn Errors of Bile Acid Metabolism〕

1 疾患概要■ 定義胆汁酸とは、肝臓でコレステロールより生合成されるステロイドの1群である。先天性胆汁酸代謝異常症とは、この生合成経路の遺伝性酵素欠損を1次性の病因とするもので、常染色体潜性遺伝形式を示す遺伝性疾患である。■ 疫学非常にまれな疾患でわが国における発症頻度は明らかではない。現在までに確定診断された本邦における患者数は筆者が知る限り、3β-hydroxy-Δ5-C27-steroid dehydrogenase/isomerase(HSD3B7)欠損症が4例、Δ4-3-oxo-steroid 5β-reductase (SRD5B1)欠損症が3例、oxysterol 7α-hydroxylase(CYP7B1)欠損症が1例、bile acid-CoA:amino acid N-acyltransferase(BAAT)欠損症が1例、以上の9例である。■ 病因胆汁酸生合成経路の遺伝性酵素欠損により、異常胆汁酸もしくは胆汁アルコールが蓄積する。異常胆汁酸は細胞毒性が強く、肝臓を中心にさまざまな臓器障害を引き起こす。異常胆汁酸の蓄積により、肝細胞が障害を受け胆汁うっ滞型肝障害を引き起こす。■ 症状一般的には、生下時から続く黄疸、肝腫大、灰白色便(脂肪便)など、乳児胆汁うっ滞症に伴う症状が出現する。進行すれば肝硬変へ移行するため、易疲労感、腹水、脾腫、低蛋白血症や凝固異常など、肝不全による症状が出現する。■ 分類先天性胆汁酸代謝異常症は、3β-hydroxy-Δ5-C27-steroid dehydrogenase/isomerase(HSD3B7)欠損症、Δ4-3-oxo-steroid 5β-reductase(SRD5B1)欠損症、oxysterol 7α-hydroxylase(CYP7B1)欠損症、cholesterol 7α-hydroxylase(CYP7A1)欠損症、sterol 27-hydroxylase(CYP27A1)欠損症、70-kDa peroxisomal membrane protein(ABCD3)欠損症、α-methylacyl-CoA racemase(AMACR)欠損症、D-bifunctional protein(DBP)欠損症、sterol carrier protein X(SCPx)欠損症、bile acid-CoA:amino acid N-acyltransferase(BAAT)欠損症、bile acid-CoA ligase(SLC27A5)欠損症と以上の11疾患が現在までに報告されている。11疾患のうち、乳幼児期に肝障害で発症し、わが国でも報告がある、3β-hydroxy-Δ5-C27-steroid dehydrogenase/isomerase(HSD3B7)欠損症、Δ4-3-oxo-steroid 5β-reductase(SRD5B1)欠損症、oxysterol 7α-hydroxylase(CYP7B1)欠損症、bile acid-CoA:amino acid N-acyltransferase(BAAT)欠損症、以上の4疾患に関して本稿では解説する。■ 予後早期に診断し治療を開始すれば内科的治療で予後良好であるが、診断が遅れると肝硬変へ進展し肝移植が必要となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)乳児期より胆汁うっ滞(ALTとD-Bilの上昇)を認め、血清・尿中に疾患特異的な異常胆汁酸もしくは胆汁アルコールを検出した場合、先天性胆汁酸代謝異常症を強く疑う。わが国における胆汁酸分析は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)もしくは液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-EIS-MS/MS)で行われている。胆汁酸分析で各疾患に特異的な異常胆汁酸が検出された場合、疑われる疾患の責任遺伝子を解析し、確定診断へ繋げる。3β-hydroxy-Δ5-C27-steroid dehydrogenase/isomerase(HSD3B7)欠損症、Δ4-3-oxo-steroid 5β-reductase(SRD5B1)欠損症、oxysterol 7α-hydroxylase(CYP7B1)欠損症、以上の3疾患は、血清γ-GTPと血清総胆汁酸が正常を示すことが特徴的である(他の病因による胆汁うっ滞型肝障害は血清γ-GTPと血清総胆汁酸が共に上昇することが多い)。Bile acid-CoA:amino acid N-acyltransferase(BAAT)欠損症は、血清γ-GTPは正常で血清総胆汁酸は上昇する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)3β-hydroxy-Δ5-C27-steroid dehydrogenase/isomerase(HSD3B7)欠損症とΔ4-3-oxo-steroid 5β-reductase(SRD5B1)欠損症に対しては、早期診断すれば1次胆汁酸療法(コール酸もしくはケノデオキシコール酸)と脂溶性ビタミンの補充を行い、診断が遅れ肝硬変となっていれば肝移植となる。Oxysterol 7α-hydroxylase(CYP7B1)欠損症に対しては、早期診断すればケノデオキシコール酸療法と脂溶性ビタミンの補充を行うが、診断が少しでも遅れると肝移植になるケースが多い。Bile acid-CoA:amino acid N-acyltransferase(BAAT)欠損症に対しては、ウルソデオキシコール酸が使用されるが、グリココール酸(日本では医薬品としての製剤はない)の使用報告もある。治療の効果は、一般的な胆汁うっ滞・肝不全に伴う症状(黄疸・灰白色便・肝腫大)の改善、血液肝機能検査の改善(ALTやD-Bilの正常化)、胆汁酸分析で血清・尿中の疾患特異的異常胆汁酸の減少、以上で総合的に判断する。4 今後の展望先天性胆汁酸代謝異常症の治療薬であるコール酸製剤は、わが国では医薬品として存在しなかったが、国内治験を経てコール酸製剤(商品名:オファコル カプセル50mg)が、先天性胆汁酸代謝異常症に対する治療薬として2023年に本邦でも保険適用となった。5 主たる診療科小児科、小児外科、移植外科、消化器内科(肝臓内科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 先天性胆汁酸代謝異常症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)水落建輝ほか. 小児内科. 2022;54:218-221.2)Mizuochi T, et al. Pediatr Int. 2023;65:e15490.公開履歴初回2023年6月29日

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第169回 4億6千万円の筋ジストロフィー遺伝子治療を米国が承認

4億6千万円の筋ジストロフィー遺伝子治療を米国が承認静注投与1回きりでその値段約4億6千万円(320万ドル)1)の筋ジストロフィー遺伝子治療を米国食品医薬品局(FDA)が承認しました2,3)。米国のバイオテクノロジー企業Sarepta Therapeutics社が開発し、4~5歳の歩けるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)小児に使うことが承認されました。商品名はELEVIDYS(delandistrogene moxeparvovec-rokl)です。DMDは筋肉が痩せ衰えていく難病で、筋肉細胞が正常でいられるようにするのを助ける蛋白質ジストロフィン(dystrophin)を失わせる遺伝子変異を原因とします。歩行や走ることが困難になる、よく転ぶようになる、疲労、学習障害/困難、心筋の支障による心臓の不調、肺機能を担う呼吸筋の衰えによる呼吸困難などの症状がジストロフィンの欠損のせいで生じます。DMDと関連する筋肉の衰えはたいてい3~6歳で見受けられるようになり、重症度や予後は一様ではありませんが、20~30歳代の若さで心臓や呼吸器の不全で命を落とすことが少なくありません。承認されたELEVIDYSはジストロフィンのいくつかの部分を寄せ集めた小振りなジストロフィン(shortened form of dystrophin)を作る遺伝子を筋肉細胞に届けてジストロフィン機能の不足を補います。ELEVIDYSが作る小振りなジストロフィンはその商品名を冠してElevidys micro-dystrophinと呼ばれます。4億円を優に超える値段であるからにELEVIDYSはDMD小児の気の持ちよう、身のこなし、移動の自由などをよほど改善することが確認済みなのかといえばそうではなく、患者を生きやすくしうるそのような臨床的有用性(clinical benefit)はまだ立証されていません。ではFDAは何をよりどころにしたかというとElevidys micro-dystrophin発現の様子です。4~5歳のDMD小児の骨格筋でのElevidys micro-dystrophin発現上昇が無作為化試験結果で裏付けられており、その年齢のDMD小児のElevidys micro-dystrophin発現上昇は臨床的有用性とどうやら結びつくとFDAは判断してELEVIDYSを取り急ぎ承認しました。承認申請に含まれる唯一の二重盲検無作為化試験の被験者全般の結果では運動機能の検査NSAA総点数の変化は残念ながらプラセボと有意差がつきませんでした。NSAAは立位、歩行、椅子や床から立ち上がること、片足立ち、段差の上り下り、仰向けから座った状態に移ること、跳躍、走ることなどの17項目を検査します。しかし4~5歳の被験者に限るとNSAA改善はプラセボをより上回っており、Elevidys micro-dystrophinの発現が多いこととNSAAの改善の関連を支持する結果が得られています4)。とはいえその結果はあらかじめ計画されていたわけではない後付(Post hoc)解析に基づくものです。よってせいぜいが仮説を生み出す試みに過ぎず解釈には注意を要するとの慎重な立場をFDAのスタッフは示しました。ところが、FDAの新薬承認審査部門を仕切るPeter Marks氏にとってその結果はもはや説得力十分(compelling)なものでした。4~5歳のDMD小児のElevidys micro-dystrophin発現上昇と予後がどうやら関連しうることがそのサブグループ解析で支持されており、総合的に見てELEVIDYSの取り急ぎの承認は妥当であると同氏は結論づけました5)。ELEVIDYSの予後改善効果を立証するための試験をFDAはSarepta社に課しており、EMBARKという名称のその試験6)はすでに進行中です。被験者組み入れはすでに目標数に達しており、結果は今年中に判明します。EMBARK試験の主要転帰は投与後1年(52週後)時点のNSAA総点数の変化です。NSAAは点数が大きいほど良好なことを意味し、最低は0点で最高は34点です。0点は17の検討項目のどれもできない最悪な状態、34点はどれも難なくこなせる最良の状態です。FDAはEMBARK試験の結果が判明したら急いで検討し、必要とあらば用途の変更や承認の取り消しなどの手段が講じられます。もしEMBARK試験が目標を達成したらELEVIDYSを年齢制限なく使えるようにするつもりだとFDAはSarepta社に先立って通知しており、来年早くにその用途拡大を実現させたいとSarepta社のかじ取り役のDoug Ingram氏は言っています7)。参考1)US FDA approves Sarepta's gene therapy for rare muscular dystrophy in some kids / Reuters2)FDA Approves First Gene Therapy for Treatment of Certain Patients with Duchenne Muscular Dystrophy / PRNewswire3)Sarepta Therapeutics Announces FDA Approval of ELEVIDYS, the First Gene Therapy to Treat Duchenne Muscular Dystrophy / BUSINESS WIRE4)FDA Briefing Document / FDA5)CENTER DIRECTOR DECISIONAL MEMO / FDA6)EMBARK試験(Clinical Trials.gov)7)Spotlight On: Elevidys eking past FDA for DMD is d?j? vu all over again for Sarepta / FirstWord

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第48回 「全ワクチン拒否」の医師は勤務可能?

新型コロナはともかく麻疹などは?Unsplashより使用某組合消防本部で、新型コロナワクチン接種を受けなかった30代の職員に対し、「接種拒否者」として廊下脇で業務をさせていたことが報道されました。接種したくないということで打たなかった人を「ワクチン拒否者」と表現することは字面としては間違ってはいないのですが、日本語としてはトゲのある言葉だなと感じます。さて、私たち医療従事者においてもワクチン接種率は当然ながら100%ではありません。副反応がかなり強く出てしまい、1回目で終了した人もいれば、アレルギー体質で最初から接種を希望しなかった人もいます。3回目接種以降の接種率は段階的に低下しており、私の知り合いもフルで接種を続けている人は全体の半数くらいです。新型コロナワクチンに限らず、患者さんと接触する以上、そのほかの感染症に対する免疫を有しているかどうかは病院の安全を守る上でも重要になります。具体的には、麻疹、風疹、水痘、ムンプス、B型肝炎です。私が医学生の頃は、これらの接種歴・罹患歴がなければ臨床実習はできなかったと記憶していますが、現在も法的には解釈が難しいところがあります。ワクチン未接種を理由とした不利益は法的に禁止麻疹や風疹など、ありとあらゆるワクチンが未接種の状態で、現場で働きたいという医師がいた場合、法的には可能でも現実的にはちょっと厳しいかもしれません。接種しないと働けないとする法的根拠は明示できず、むしろ雇用者は従業員に対して「ワクチン接種拒否を理由とした不利益がないように」扱われるべきとされています(予防接種法第9条)。―――つまり、話し合いや職場配置転換などで対応するしかないのが現状です。かといって、正当な理由でない「自然派志向」によるワクチン未接種で、それによって患者に感染を広げてしまったような場合、そちらの責任のほうが問われかねません。ただ、その医師から感染したというコンタクトトレースができない場合、そのような責任に至ることもないでしょう。クリニックを経営している医師の中に、新型コロナ以外のワクチンも含めて強固なワクチン反対派もいます。自分が経営者であることから、現状は法的な対応が難しいと思われます。

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「新型コロナ感染症対策の情報提供サイト」開設/モデルナ

 モデルナは2022年12月22日、一人ひとりにあった感染予防対策や最新情報の提供を目指した、新型コロナウイルス感染症情報サイト『コロナ対策ステーション』(以下、当サイト)を開設した。当サイトは4つのメニューから構成されており、各コンテンツを通して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する正しい知識を得られる場となることが期待される。『コロナ対策ステーション』について SARS-CoV-2感染によるCOVID-19は、日本の公衆衛生にとっていまだ脅威であり、今後さらなる感染再拡大も懸念されている。当サイトは、「一人ひとりの年齢やこれまでのワクチン接種状況などに応じて、感染対策情報の提供と新型コロナウイルス感染症に関する疑問を解決する」というコンセプトのもと、「あなたのための新型コロナウイルス対策(FAQ)」「知っておきたいコロナ対策(動画5本掲載)」「コロナウイルス流行株インフォ」「ワクチン接種会場を調べる」の4つのメニューで構成され、「一人ひとりにあった感染予防対策や最新情報」を提供している。 当サイトのナビゲーターを務めるのは俳優の椎名 桔平氏である。椎名氏は、一般生活者の代表としてサイト内の随所に登場する。また、矢野 晴美氏(国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター 副センター長/感染症学教授)が監修する「知っておきたいコロナ対策」では、新型コロナウイルス対策やワクチンについて、矢野氏による丁寧な解説を動画で視聴することができる。 当サイトの開設について、モデルナ・ジャパン代表取締役社長の鈴木 蘭美氏は、「新型コロナウイルスは、日本の公衆衛生にとって引き続き脅威となっております。モデルナはワクチン提供にとどまらず、当サイトを通してCOVID-19に関する正しい情報を提供することで、皆さんのお役に立てることを願っています」と述べている。【コロナ対策ステーションのコンテンツ内容】・あなたのための新型コロナウイルス対策(FAQ) 年齢、性別、ワクチン接種回数、家庭内の小さな子どもの有無、健康状態を選択すると、その条件にあった内容の情報が抽出され閲覧できる。・知っておきたいコロナ対策(動画5本掲載、1本当たり4~5分) 矢野氏監修のコンテンツ。椎名氏が聞き手として5本の動画内に登場し、COVID-19対策の各テーマについて矢野氏による解説を聞く内容となっている。1. 接種対象者案内「接種対象者はどんな人?」2. 追加接種の意義「追加接種は必要?」3. コロナワクチンの種類「新型コロナウイルスのワクチンにはどんな種類があるの?」4. 変異株とは「ウイルスの変異って何?」5. 副反応対策「追加接種の副反応、大丈夫?対策は?」・コロナウイルス流行株インフォ国立感染症研究所の変異株情報をわかりやすく解説している。・ワクチン接種会場を調べる厚生労働省のコロナワクチンナビ「接種会場を探す」へリンクし全国の接種会場を調べることができる。

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心臓に良いとされるサプリのコレステロール低下作用は否定的/JACC

 心臓に良いとされているサプリメント(サプリ)のコレステロール低下作用を検討した結果、いずれも見るべきものはなく、中には負の影響を示すものもあったとする報告が、米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)で発表されるとともに、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に論文が同時掲載された。米クリーブランド・クリニックのLuke Laffin氏らの研究によるもの。 心血管疾患のリスク抑制には、血清脂質値の改善〔LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪の低下、HDL(善玉)コレステロールの上昇〕が重要であり、その手段として医師からは、主としてスタチンと呼ばれる薬剤が処方される。一方、処方箋のいらないサプリメントの中にも心臓に良いとされているものがある。ただし、それらの血清脂質改善作用は明らかでない。そこでLaffin氏らは、それら6種類のサプリの脂質改善作用をスタチンの一種であるロスバスタチンと比較するという、前向き無作為化単盲検比較試験を実施した。 研究対象は、LDL-Cが70~189mg/dLの範囲で、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往がないもののそのリスクが高い40~75歳の成人190人。ロスバスタチン5mg/日、そのプラセボ、または、魚油、シナモン、ニンニク、ウコン、植物ステロール、紅麹を摂取するいずれかの群に無作為に割り付け、28日間での血清脂質値の変化を比較検討した。主要評価項目は、LDL-Cの変化率だった。 その結果、ロスバスタチン群のLDL-C変化率は、プラセボ群や全てのサプリ群より有意に大きく(p<0.001)、対プラセボでは-35.2%(95%信頼区間-41.3~-29.1)だった。またロスバスタチン群では、総コレステロールが24.4%低下し、中性脂肪は19.3%低下した。プラセボ群とサプリ群との比較では、プラセボ群よりもLDL-C低下幅が有意に大きいサプリはなかった。さらに、ニンニクではLDL-Cが7.8%上昇し、植物ステロールではHDL-Cが7.5%低下した。有害事象の発生率は群間に有意差がなく、スタチン服用を避けたがる人がその理由として挙げることの多い、筋骨格系症状や神経学的症状、肝機能・糖代謝への影響も認められなかった。 Laffin氏によると、サプリ市場は米国で約500億ドルの規模に上り、その使用者の約5人に1人は、コレステロールの低下や心臓の健康増進を期待して使用しているという。同氏は、「それらのサプリを使用している人は、目的にかなった恩恵を受けていない。心臓専門医やプライマリケア医は、患者に対してエビデンスに基づいた情報提供を行う必要があるだろう」と語っている。 この発表に対して、業界団体(Council for Responsible Nutrition)の役員を務めているAndrea Wong氏が異議を唱えている。同氏の主張は、「医家向けの処方薬を対照とする短期間の介入では、サプリの有用性の評価はできない。特に高コレステロール血症のような多因子が関与している状態の改善には、4週間という設定は短すぎる」というものだ。さらに同氏は研究に選択されたサプリの種類にも疑問を投げかけている。「用いられたサプリはいずれも心臓の健康上のメリットがよく知られているが、コレステロール低下目的で販売されているのは3種類のみであり、ほかのサプリは糖代謝や中性脂肪へのメリットを期待して使われているものだ。LDL-Cの変化率を評価するという研究目的で、なぜそれらのサプリが選択されたのか、理由が分からない」という。 Wong氏は、「サプリは、医薬品やその他の治療に取って代わるものではない。そうではなく、健康をサポートし、健康的な食事、身体活動、および医療専門家による定期的な検査と組み合わせて使用し、疾患のリスク抑制に役立てるものである」とサプリの意義を強調している。 他方、米ジョージ・ワシントン大学のJanani Rangaswami氏は、本研究結果を、「スタチンとサプリの実際の価値を患者が理解する上で役立つ情報だ。医師が患者へ、適切な治療手段の選択を促す際に助けとなるだろう」としている。「この研究結果を患者に示し、『これが、あなたがお金を払って得ようとしている効果の実情です』と言うだけでよい。ロスバスタチンを低用量服用するだけで、他の全てのサプリやプラセボよりも、はるかに効果的なことを伝えられる」と同氏は本研究の成果を評価している。

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第142回 ウルソでコロナ予防

胆石などの胆汁鬱滞性肝疾患の治療で広く使用されている馴染みの薬・ウルソデオキシコール酸(UDCA)、いわゆるウルソは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の細胞侵入の玄関・ACE2への同ウイルスの結合を阻止することが知られています1,2)。体内では細菌によって胆汁酸から作られるそのウルソの働きはSARS-CoV-2のACE2結合阻止にとどまらず、なんとACE2それ自体を減らしてSARS-CoV-2感染(COVID-19)を予防しうることが新たな研究で判明しました3-5)。新たな研究ではACE2発現が胆汁酸受容体として知られるファルネソイドX受容体(FXR)によって調節されていることがまず突き止められ、続いてFXR伝達抑制を担うウルソがはたしてACE2発現を減らすことが見出されました。ウルソでACE2発現を抑制することでSARS-CoV-2感染を予防しうることはハムスターの実験で確認されています。9匹のハムスターにヒトでの使用量相当のウルソを投与し、他の6匹には生理食塩水を与え、しばらくしてからそれらハムスターをSARS-CoV-2感染ハムスターと同居させました。その4日後にハムスターを安楽死させて肺を調べたところ食塩水投与群ではすべてからSARS-CoV-2が検出されました。一方、ウルソ投与群でのSARS-CoV-2検出は3匹に1匹で済んでいました5)。餌を自由に食べられるようにしたにもかかわらず食塩水投与ハムスターはSARS-CoV-2感染ハムスターとの同居の後に体重がおよそ9%減りました。一方、ウルソ投与群のハムスターは体重が若干上昇しており、ウルソ投与群のハムスターはどうやらSARS-CoV-2に感染したとしても重症化を免れていたようです。移植されず仕舞いのヒトの肺や肝臓を譲り受けて行った実験でもウルソによるACE2抑制がSARS-CoV-2を感染し難くすることが確認されました。研究はさらに続き、生身の人ではどうかが検討されました。8人にウルソを5日間服用してもらい、SARS-CoV-2感染の主な入り口である鼻上皮細胞をスワブ(nasopharyngeal swab)で採取して調べたところACE2が減っていました。英国の原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者情報を集めているUK-PBCのデータ解析でも同様で、ウルソ使用は血清ACE2が少ないことと関連しました。続いてウルソに予後改善効果があるのかどうかがCOVID-19を被った慢性肝疾患患者およそ千人のデータを使って検討されました。その結果、ウルソ使用患者31人は入院、集中治療室(ICU)、死亡がウルソ非使用患者155人に比べてより少なくて済んでいました。肝臓移植患者の記録集を使った比較でもウルソ使用患者(24人)の方がウルソ非使用患者(72人)に比べて中等度や重度以上のCOVID-19をより免れていました。また、著者等が文献執筆中に知った肝硬変患者3千人超のデータ解析ではウルソ使用とCOVID-19がより生じ難いことやより重度のCOVID-19に至り難いことの関連が示されています。30年前から売られているウルソはおよそ安全で副作用がほとんどなく4)、長期投与が可能であり、体が弱い人のCOVID-19の予防薬としてとくに役立つ可能性があります。二重盲検試験を実施してウルソとACE2レベル変化やSARS-CoV-2感染しやすさの関連を調べる必要があると著者は結論しています。ウルソ生成腸内細菌がコロナ死亡率の地域差と関連COVID-19による死亡率は国毎にだいぶ異なり、去年11月に名古屋大学の研究チームが発表した成果によるとCOVID-19死亡率のそのような地域差にどうやら腸内細菌Collinsella(コリンセラ)属が寄与しているようです6,7)。コリンセラ属は他でもないウルソ生成菌であり、肝臓で作られて腸内に放出された胆汁酸をウルソに変換します。名古屋大学の研究チームは10ヵ国953人の匿名の公開情報を解析し、腸内のコリンセラ属が乏しいこととCOVID-19死亡率が高いことの関連を見出しました。ポルトガルでの試験ではより重度のCOVID-19とコリンセラ属が乏しいことの関連が示されており8)、名古屋大学の研究と一致します。ウルソはCOVID-19予防やCOVID-19合併症の緩和効果があるかもしれず、ウルソを作るコリンセラ属のそれらの効果をさらなる試験で調べる必要があると名古屋大学の研究チームは結論しています。参考1)Poochi SP, et al. Food Front. 2020;1:168-179. 2)Carino A, et al. Front Chem. 2020 Oct 23;8:572885.3)Brevini T, et al. Nature. 2022 Dec 5. [Epub ahead of print]4)A liver disease drug could be repurposed to protect against COVID - new research / The Conversation5)Drug that targets ACE2 receptors may work against new covid variants / New Scientist6)Hirayama M, et al. PLoS One. 2021;16:e0260451.7)腸内細菌 Collinsella 属が COVID-19 の感染・重症化を予防 / 名古屋大学8)Moreira-Rosario A, et al. Front Microbiol. 2021;12:705020.

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オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?【非専門医のための緩和ケアTips】第38回

第38回 オピオイドの嘔気、制吐薬は必須?オピオイドの副作用といえば「便秘」と「嘔気」ですね。内服を開始した当初は眠気が強い方もいます。今回は副作用のうち、嘔気について考えていきましょう。今日の質問高齢の肺がん患者さんが通院していて、骨転移の痛みに対して医療用麻薬を使用しています。医療用麻薬は1ヵ月前から内服を始め、痛みは和らいでいるようです。制吐薬を飲み続けているのですが、いつまで続ければいいのでしょうか?「オピオイドを内服開始する時には、必ず制吐薬を処方しましょう!」これは私が緩和ケアの仕事を始めた10年以上前によく言われていたことです。医療用麻薬という名前だけで不安を感じる方がいるのに、飲んでみたら痛みは和らいだけど吐き気がする…。こんなことがあると、「もうこんな怖い薬は飲みたくないです」と言われてしまいます。また吐き気ってつらいのですよね。そういった意味でも、制吐薬は重要な併用薬として見なされていました。しかし近年、この「オピオイド開始の際に予防的に制吐薬を内服する」というプラクティスは見直されつつあります。その背景には、高齢患者が増え、制吐薬による副作用への懸念が高まったことがあります。制吐薬の多くが抗ドパミン作用を持ち、代表的な副作用は錐体外路症状です。錐体外路症状としてはアカシジア(静座不能症)などが有名です。一方、オピオイド服用に伴う嘔気は、便秘と異なり、すべての患者さんに生じるわけではありません。またオピオイドの投与開始後1~2週間で軽減することも知られています。このような嘔気に対し、錐体外路症状の懸念のある制吐薬を全員に投与するのか? という議論が生じてきたのです。今回の質問のように、医師が気付いて「もうこの制吐薬はやめてもいいのでは?」と考えられればよいのですが、気付くと何ヵ月も不要と思われる制吐薬を内服し続けていたといったケースも見聞きします。今回の質問のケースでも、嘔気がないのであれば制吐薬は中止して問題ありません。医療用麻薬を処方する際、すべての患者さんにルーチンで制吐薬を処方するのではなく、「個別に必要性を判断すること」「長期投与にならないように注意すること」が重要になっているのです。では、どんな患者さんには制吐薬を処方すべきなのでしょうか。私のやり方としては、医療用麻薬に対する心配が強いこうした方には「吐き気が出てもクスリが手元にあると安心ですよね」と言葉を添えて処方するケースが多いです。嘔気が生じやすい病態腸閉塞を繰り返している患者さんなどは、「最初の1週間だけ内服しましょう」といって制吐薬を処方することがあります。一方、入院患者さんの場合は、嘔気が出ても迅速に対応できるので、制吐薬の処方は控えるケースが多くなります。「個別性に配慮した緩和ケア」としては、各医師の腕の見せどころかもしれません。皆さんはどうされているでしょうか?今回のTips今回のTipsオピオイドと併用する制吐薬の処方は、適応を考えて個別に判断しましょう。

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事例008 神経根ブロック時の超音波検査(その他)の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、「D215 超音波検査 2ロ(3)その他の場合」が保険診療上適当でないものとしてC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。「L100_1 神経根ブロック」の留意事項には、「椎間孔を通って脊柱管の外に出た脊髄神経根をブロックする[1]の神経根ブロックに先立って行われる選択的神経根造影などに要する費用は、[1]の神経根ブロックの所定点数に含まれ、別に算定できない」「神経ブロックに先立って行われるエックス線透視や造影などに要する費用は、神経ブロックの所定点数に含まれ、別に算定できない」とあります。これを根拠に査定となったものです。原因を調べると神経根ブロックの実施に先立ち実施されていた超音波検査を、単独実施の超音波検査であると誤って入力されていたことがわかりました。実施日が異なるために、レセプトチェックシステムで指摘されずにそのまま請求されていました。少し注意すれば、実施日が異なり病名が1つであれば、一連の診療として先立って行われた超音波検査ではないかと推測ができます。担当者への再周知と、神経根ブロックと超音波検査が同月に算定されている場合に注意を促すようコンピュータチェックシステムを改修して、査定対策としました。

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乳腺密度とサブタイプ、予後の関連~日本人女性患者の検討から

 高濃度乳房は乳がんリスクが高いというコンセンサスは得られている一方で、乳腺密度と乳がんサブタイプの関連については相反する報告がある。聖路加国際病院の山田 大輔氏らは、日本人女性の乳腺密度ごとの乳がんサブタイプの傾向を調査し、生存率を解析。Clinical breast cancer誌2022年8月号に報告した。 2007~08年にかけて,聖路加国際病院でマンモグラフィ検査を受け,病理診断を受けた浸潤性乳がんの日本人患者1,258例が対象。乳腺密度(高濃度乳房、非高濃度乳房)を初回のマンモグラフィー所見に基づいて分類し、がんのサブタイプと比較した。高濃度乳房と非高濃度乳房の患者について、それぞれ5年および10年生存率に関する情報をカルテレビューにより収集した。統計解析は、乳腺密度とがんのサブタイプについてピアソンのカイ二乗検定を用いて行った。死亡に対する乳腺密度の影響については、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて検討され、調整ハザード比が算出された。 主な結果は以下のとおり。・乳がんのサブタイプと乳腺密度の間に有意差は認められなかった(p=0.08)。・5年生存率(log-rank検定のp=0.09)および10年生存率(log-rank検定のp=0.31)は、乳腺密度によって有意差はなかった。

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第114回 コロナ新対策決定、協定結んだ医療機関は患者受け入れ義務化、罰則規定も

岸田首相がコロナ新対策公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載を読んでくれている友人から、今度は「今年はコロナ関連の話題も少ないね」と言われました。確かに、少ない、というかほとんど書いていません。お正月の回で、独自の“楽観論”を書いたところ、不思議なことにコロナが収束に向かい始めたので、少々ウオッチを怠っていたのがその理由です。そんな“楽観論”から約半年、先週、岸田 文雄首相が、新型コロナをはじめとする感染症に対する新対策を公表しました。参議院選挙を睨んだパフォーマンスと見る向きもありますが、それなりにこれまでの反省点を踏まえた内容になっています。今回は新対策に盛り込まれた医療提供体制の改革案について書いてみたいと思います。一元的に感染症対策を行う内閣感染症危機管理庁を新設岸田首相は6月15日、通常国会の閉会を受けて首相官邸で記者会見を行い、新型コロナウイルスを含む今後の感染症に対応する「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し、司令塔機能を強化することを表明しました。内閣感染症危機管理庁は、感染症の危機に備えて「首相のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行う」組織で、同庁の下で平時から感染症に備え、有事の際は物資調達などを担う関係省庁の職員を同庁の指揮下に置き、一元的な対策を行うとしています。またトップには「感染症危機管理監」(仮称)が置かれる予定です。新型コロナ対応は現在、内閣官房の「新型コロナウイルス感染症等感染症対策推進室」と、厚労省の「新型コロナ感染症対策推進本部」の2つの司令塔があり、その連携のまずさが度々問題視されてきました。たとえば「ワクチン・検査パッケージ」を陰性証明に使うかどうかや、ワクチンの3回目接種時期を巡っては、内閣官房と厚労省の考え方の違いが表面化し、政策決定にも支障が出ていました。両者を統括した形の内閣感染症危機管理庁の設置は、省庁をまたぐ縦割りの弊害を解消し、一体的に対応できる体制を構築するためのものだと言えます。感染研と国際医療研究センターを統合し「日本版CDC」にさらに、厚労省における平時からの感染症対応能力も強化されます。各局にまたがる感染症対応、危機管理の部署を統合して「感染症対策部」を新設するとしています。さらに「感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織」も一元化するため、研究機関である国立感染症研究所と、高度な治療・研究の拠点である国立国際医療研究センターを統合、米疾病対策センター(CDC)をモデルとした、いわゆる「日本版CDC」を厚労省の下に創設するとしています。危機管理組織や専門家組織の一元化は望ましいことです。ただ、気になる点もあります。一点目は、統合後の組織の位置づけです。米国では感染症研究や臨床試験の主な担い手は米国立衛生研究所(NIH)であり、疾病の情報掌握とそれらが発生した時の公衆衛生対策等が主な役割であるCDCではありません。国立国際医療研究センターの現在の機能はどちらかと言えばNIH的と考えられるので、「日本版CDC」というコンセプトでよいのかどうか疑問が残ります。もう一点は、東京大学医学部のジッツ色が濃い国立国際医療研究センターが、感染症研究の中心になることで、研究分野の主導権や研究費の獲得を巡って大学間で軋轢が生じたりしないかということです。そのあたり現場の調整は意外に大変そうです。「医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みに法的根拠を与える」重症患者受け入れから、市中での検査体制まで、コロナ禍で最もその脆弱性が浮き彫りになった医療提供体制についても、病床確保の面で踏み込んだ改革が行われます。岸田首相は会見で、「本日の有識者会議の報告を受け止め、昨年の総裁選で約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行う。医療体制については、11月の『全体像(次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像)』で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることでさらに強化する。地域の拠点病院に協定締結義務を課すなど、平時から必要な医療提供体制を確保し、有事にこれが確実に回ることを担保する」と語りました。「かかりつけ医機能が発揮される制度整備が重要」と有識者会議政府の「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」(座長:永井 良三・自治医科大学長)も同じ15日に報告書1)をまとめ、首相会見の直前に公表しており、その内容を踏まえて岸田首相は医療提供体制の改革案を述べたわけです。そもそも、有識者会議報告書があって、政府がそれを参考に政策立案、参院選前に公表という筋道が必要だったため、有識者会議の議論はかなり拙速気味に行われたようです(会議自体は5月から4回開催、5回目に報告書)。ただ、報告書自体は、以下のようにしごく真っ当な指摘をしています。「感染症危機時に実際に病床を確保するために必要な対応など実際の具体的な運用に関して、感染症法に基づく予防計画や医療法に基づく医療計画との連携ができていなかった」と法整備の不備を指摘、「各地域で個々の入院医療機関が果たすべき役割が明示されておらず、医療機関の協力を担保するための措置もなく、現場は要請に基づいて対応せざるを得なかった」として、現場でのさまざまなドタバタぶりを例示しています。その上で、病院については、「各地域で平時より、医療機能の分化、感染症危機時の役割分担の明確化を図るとともに、健康危機管理を担当する医師及び看護師を養成してネットワーク化」することを提案しました。さらに、かかりつけの医療機関(とくに外来、訪問診療等を行う医療機関)についても、「各地域で平時より、感染症危機時の役割分担を明確化し、それに沿って研修の実施やオンライン診療・服薬指導の普及に取り組むなど、役割・責任を果たすこととした上で、感染症危機時には、国民が必要とする場面で確実に外来医療や訪問診療等を受診できるよう、法的対応を含めた仕組みづくりが必要である。今後、さらに進んでかかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが重要である」と提言しました。特定機能病院や公立・公的病院には協定締結の義務岸田首相の記者会見から2日後の6月17日、政府は新型コロナウイルス感染症対策本部において、内閣感染症危機管理庁などを新設することや、病床確保を確実にするため国・地方の権限を強化する方針を盛り込んだ「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」2)を正式決定しました。感染症法の改正に向けて本格的な検討に入り、秋の臨時国会に法案提出する予定とのことです。明らかになった「方向性」でとくに注目されるのは、有事の病床確保のために協定の締結を求める点です。具体的には、都道府県が医療機関との間で協定を結び、病床や外来医療を感染者の急増時などに提供できるようにするとのことです。協定の仕組みは法律(感染症法)で定め、地域医療の拠点となる特定機能病院や公立・公的病院には協定締結の義務を課すとのことです。有事に医療機関が協定に従うようにするため、協定の履行状況を公表するほか、特定機能病院については承認の取り消しも視野に入れるとしています。また、自宅・宿泊療養者等への医療提供についても、医療機関との間で協定を締結するとしています。「協力を求め」て「勧告」するくらいでは病院は動かない新型コロナの感染が急増していた昨年、本連載でも国の病床確保策の不十分さについて度々書いてきました。2021年4月21日掲載回では、2021年2月に改正された感染症法(第16条の2)に基づき、奈良県が民間病院を含む県内全ての75病院に病床確保や患者の受け入れを要請したニュースを取り上げました。昨年の感染症法改正では、コロナ病床の確保を目的に、国や地方自治体の権限を強化しました。同法第16条の2は「厚生労働大臣又は都道府県知事等は、緊急の必要があると認めるときは、医療関係者・民間等の検査機関等に必要な協力を求め、その上で、当該協力の求めに正当な理由がなく応じなかったときは勧告することができる(正当な理由がなく勧告に従わない場合は公表することができる)こととすること」となっています。しかし、結局、この動きが全国に広いがることはありませんでした。「必要な協力を求め」て「勧告」するくらいでは病院は動かないことが証明されたのです。次に予定される感染症法等の改正は、明らかにこれに懲りての対応と考えられます。協定の締結を特定機能病院に義務付け、承認取り消しという罰則も想定されています。また、特定機能病院以外の医療機関との協定についても罰則の導入が検討される模様です。罰則導入は、「お願い」ベースでは思うように動かなかった日本の医療機関に対し、ちゃんと動いてもらうための最後手段と言えます。しかし、こうした政府の動きに対し、日本医師会の中川 俊男会長(既にレームダックですが)は6月15日の記者会見で「強制的に病床を確保せよという仕組みは、地域医療にとって決していいことではない」と語ったそうです。罰則規定には、今後新体制となる日本医師会含め、医療関係団体からの反対も予想されますが、昨年の感染症法改正が病床確保にまったく役にも立たなかったことを考えると、次こそ有事に実効性のある改正を期待したいものです。参考1)新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について/新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議2)新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性/新型コロナウイルス感染症対策本部

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爆笑マンガ付き感染対策本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第51回

【第51回】爆笑マンガ付き感染対策本感染対策の医学書って難しいです。医療従事者向けの書籍だと、どうしてもウイルスの学問的な話になってしまうので、気楽に読める本というのがなかなかないのです。『ねころんで読めるウィズコロナ時代の感染対策』矢野 邦夫/著. メディカ出版. 2022年2月発売メディカ出版からのこの本、気楽に読めること読めること。何なら、ねころんだ状態で、漫画でゲラゲラ笑うこともできます。まぁ、もともとそういうコンセプトの本なのですが。この「ねころんで読める」シリーズ、漫画が本当に面白くて、私はファンなので、おそらく全種類持っていると思います。私も実は、呼吸器シリーズを書いています!空気感染とエアロゾル感染の説明のくだりで、「人間は空を飛ぶことはできるのか?」という質問にどう答えるかという比喩が紹介されており、溜飲が下がります。オリンピックなどで、走り高跳びをすれば2.4m以上飛ぶかもしれませんが、棒高跳びにいたっては6mも飛べます。要は、物は言いようということですが、「新型コロナウイルスが空気感染する!」という話題が報道されたとき、ビビっていた医療従事者も多かったのではないでしょうか。うちのコロナ病棟でもザワついていました。新型コロナに関しては、とにかくデマゴーグがたくさん爆誕しました。堂々とデマをSNSで流しているインフルエンサーの下に、今でもプチデマゴーグがねずみ算式に生まれている状況です。私の勤務先にも、1年前よりも現在のほうが怪文書が届きやすくなりました。「ワクチンを接種するな、PCR検査をやめろ、間違った情報発信をやめろ」という内容が多いです。怪文書だけならともかく、一番許しがたいのは、グツグツ煮込んだ誤情報を書籍として刊行してしまう出版業界のモラルハザードです。ファクトチェックがまったく機能していないんですよね。アフターコロナについては、私も矢野先生と同じように考えています。ウィズコロナがいつの間にかアフターコロナになるのでしょう。もうコロナ禍に入って2年以上経つので、早く平和な時代が訪れてほしい。『ねころんで読めるウィズコロナ時代の感染対策』矢野 邦夫 /著.出版社名メディカ出版定価本体2,000円+税サイズA5判刊行年2022年

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